加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法は2006年頃から開始されました。副作用として心筋梗塞、脳梗塞が指摘されています。
埼玉の病院にいた時に硝子体注射係をしていました。週15件を1年半くらい続けて、術後の診察もほとんどやりました。その他の病院でも結構な数の注射をしてきましたのでおそらくこれまで1000回くらい抗VEGF注射をしましたが、心筋梗塞や脳梗塞が起こったことはありませんでした。ただし心筋梗塞や脳梗塞の危険性が高い患者さんには注射はしませんでした。
この副作用に関して否定的な論文があります。
論文
Introducing anti-vascular endothelial growth factor therapies for AMD did not raise risk of myocardial infarction, stroke, and death
Ophthalmology 2016, 123: 2225-2231.
アメリカの論文です。
内容
2006年に滲出型の加齢黄斑変性(AMD)と新たに診断された患者を対象とし、その後の5年間を調べました。抗VEGF療法の導入が急性心筋梗塞と脳梗塞による死亡および入院に影響を与えるか調べています。
比較対照群は以下の通りです。これは加齢黄斑変性と診断されていても抗VEGF注射を受けていないと考えられる患者です。
- 抗VEGF療法を使用できない時期に滲出型AMDと新たに診断された患者
- 非滲出型AMDと新たに診断された患者
対象
治療群:2006年に滲出型AMDと新たに診断された患者。ただしこの群は抗VEGF注射の適応がある患者で、治療を実際に受けたかどうかは不問。
比較対照群:2000年に滲出型AMDと新たに診断された患者と、2000年または2006年に非滲出型AMDと新たに診断された患者。
結果
治療群と比較対照群は診断後5年間の急性心筋梗塞や脳梗塞による死亡および入院の確率について有意差は認められませんでした。
まとめ
注射しても急性心筋梗塞、脳梗塞が増えることはないという結果でした。
アメリカは医療費が高いので治療の適応があっても受けられないということがあります。また、抗VEGF注射の副作用が指摘されていたので、心筋梗塞や脳梗塞の危険性が高い患者さんには投与をしないようにしていたと考えられます。したがって、今回の治療群の中には治療を受けていない患者さんも含まれていると考えられます。
言い換えると、副作用の危険性の高い患者さんには注射をしないように意識していれば副作用を防げる、ということかもしれないです。
これからも心筋梗塞と脳梗塞の危険性がある患者さんは慎重に注射の適応を判断していこうと思います。